2006年4月6日(木)
ヒストリー・オブ・バイオレンス


「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を見てきました。
暴力の歴史・・とは訳しません。
暴力的な過去を持つ・・という意味だそうです。

なかなか素晴らしい作品でした。
さすがはクローネンバーグです。
東京での公開が東劇の一館だけというのは、何とも勿体無い話です。
一見地味に見える作品なので、宣伝しにくいのでしょうか?

実際にはまったく地味な作品ではありません。
非常に過激でスピーディ、贅肉がそぎ落とされたようで、無駄がまったくありません。
全編を通じてリズミカルで、ある種の爽快感があります。
ストーリーが単純でわかりやすいのに、心には何か複雑なものを残す・・そういう作品でした。

実はクローネンバーグという監督は、そんなに好きではなかったのですが、今回は唸りました。
どうせ映画を見るならこういう作品を見たいものです。




中西部の田舎町で幸せに暮らす家族。
物静かで優しい夫は小さな食堂を経営し、妻は弁護士、それに二人の子供・・
ある日起きた強盗事件が、そんな幸福な家族の日常を一変させます。

なぜか別人のように的確な動作で強盗二人を始末する夫。
ヒーローとなりテレビに映された夫の顔を見て、集まってくるマフィアたち。
彼らに脅され動揺し、やがて夫に疑いを持ち始める妻・・・暴力的になる息子・・・
事件をきっかけに登場人物たちの生活に狂いが生じはじめます。

クローネンバーグは流血映画で有名ですが、この映画でも彼らしい描写が随所に顔を出します。
たとえば銃で人の顔を撃てば、額に開いた小さな弾痕だけではなくて、頭の裏側の吹き飛ばされた方を見せたがる(笑)
しかし今回はそれが意図的な描写であることが伝わってきます。
つまり、理由はどうあれ人を撃つとこういうことが起きるんですよ・・ということを冷徹に示しているんです。
これが無かったら、この脚本ではただの西部劇になりかねない。

クローネンバーグの演出のリズムは素晴らしいですね。
安定しているし統一がとれています。
特に戦闘シーンは見事で、もったいぶったところが無く、リアルタイムでパッパッパッと事が進行します。
普通のシーンにも、どこかアブノーマルな香りを感じさせるのは、彼ならではの持ち味でしょう。

ヴィゴ・モーテンセンは、最初にシナリオを読んだ時は暴力的な内容に出演を躊躇したそうですが、監督がクローネンバーグと聞いて考え直したといいます。
この人は例によって表情に乏しい独特の演技ですが、クローネンバーグは彼を上手く使いこなしていると言えるでしょう。
モーテンセンという役者さんは、「オーシャン・オブ・ファイヤー」といい、作品に恵まれていますね。
今回は脇を固める俳優さんたちが特に優れているのですが、その中においても彼が存在感を失わないということは、強いカリスマ性を持っているからかもしれません。

ラストシーンは特に印象的で、「ここで終われば完璧だな・・」と思うところで、いきなりピタッと終わります。
夢中になって見ていた観客からどよめきが起きました。
「お見事!」という感じでした。